猫がごはんを食べない…どうすれば?獣医師が教える原因の見分け方と対処法
- Ryuichi Saika
- 3 日前
- 読了時間: 27分

いつもは「ごはんまだ?」と足元にすり寄ってくる愛猫が、急にプイッと顔をそむける…。元気そうに見えるけど、大好きなおやつにも興味を示さない姿を見ると、「もしかして病気?」「私の育て方が悪いのかな?」と不安になりますよね。
実は、猫は不調を隠すのがとても上手な動物です。その食欲不振は、単なる気まぐれやわがままではなく、言葉にできない「助けて」のサインかもしれません。安易な自己判断で様子を見てしまうと、隠れた重い病気を見過ごしてしまう危険性もあります。
この記事では、日々多くの猫と向き合う獣医師の知見に基づき、病院へ行くべき危険なサインの見分け方から、フードやストレスといった病気以外の原因、そして具体的な対処法までを網羅的に解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたはもう一人で悩むことなく、愛猫の状態を冷静に見極め、今すぐ取るべき最適な行動が明確になるはずです。
ご自宅でできるセルフチェックリストや、すぐに試せる具体的な対処法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。愛猫の小さなSOSサインを見逃さず、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。
※本記事は、動物医療に関する情報提供を目的としており、専門家(獣医師)による診断の代わりとなるものではありません。愛猫の体調に少しでも不安を感じる場合は、自己判断せず、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。
猫がごはんを食べないのは病気?すぐに病院へ行くべき危険なサイン

愛猫がごはんを食べない時、まず確認すべきは緊急性の高い症状の有無です。特に、食欲不振に加えて他の異常が見られる場合は、深刻な病気が隠れている可能性も。ここでは、一刻も早く動物病院へ連れて行くべき危険なサインを解説します。
ぐったり・嘔吐・呼吸困難は危険信号!すぐに病院へ連れて行くべき症状
【子猫・老猫・持病あり】体力のない猫は早めの受診が重要
これらのサインを見逃さないことが、愛猫の命を守ることに繋がります。
ぐったり・嘔吐・呼吸困難は危険信号!すぐに病院へ連れて行くべき症状
食欲不振に加えて、以下の症状が1つでも見られる場合は、様子を見ずにすぐに動物病院を受診してください。これらは、命に関わる病気のサインである可能性が高いからです。
元気がない・ぐったりしている: 明らかに元気がなく、動きたがらない。お気に入りのおもちゃにも反応しない。
嘔吐や下痢を繰り返す: 1日に何度も吐いたり、水のような下痢をしたりする。
呼吸がおかしい: 口を開けてハァハァと苦しそうに呼吸している、または呼吸が速い。
トイレに行かない、または頻繁に行く: 24時間以上おしっこやうんちが出ていない、または何度もトイレに行くが何も出ない。
体を痛がる: 抱き上げようとしたり、特定の部分を触ったりすると鳴いて嫌がる。
よだれが多い、口を気にする: 口から大量のよだれが出ている、または前足で口の周りを頻繁にこする。
意識がない、けいれんしている: ぐったりして呼びかけに反応しない、または体が硬直して震えている。
これらの症状は、異物の誤飲による腸閉塞、急性腎不全、中毒など、緊急の処置が必要な状態を示唆している場合があります。ためらわずに、夜間や休日であれば救急対応の動物病院に連絡しましょう。
【子猫・老猫・持病あり】体力のない猫は早めの受診が重要
成猫であれば24時間程度の絶食には耐えられる場合もありますが、子猫や老猫、持病のある猫は別です。これらの猫は体力がなく、食欲不振が短時間でも命に関わる事態を引き起こすことがあります。
特に子猫は、食事ができないと「低血糖」に陥りやすく、ぐったりしてけいれんなどを起こす危険性も。また、老猫(シニア猫)や慢性腎臓病などの持病を持つ猫は、食欲不振が病状の悪化を意味しているケースが少なくありません。
「いつもと違うな」と感じたら、たとえ他の危険な症状が見られなくても、早めに動物病院に相談することをおすすめします。飼い主の「念のため」という判断が、愛猫の健康を守る鍵となるでしょう。
病院に行く前に確認!猫がごはんを食べない原因を探るセルフチェックリスト
緊急性の高いサインは見られないけれど、やっぱり食欲がない。そんな時は、動物病院へ行く前にご自宅で猫の様子を詳しく観察してみましょう。これから紹介するチェックリストは、原因を探るヒントになるだけでなく、獣医師に症状を的確に伝えるための準備にも役立ちます。
元気は?水は飲む?トイレは?猫の全身状態を観察しよう
【動画で実践】口の中をチェック!歯茎の色・よだれ・口臭は病気のサイン?
体を優しく触ってチェック|痛がる場所や体重減少はない?
獣医師に的確に伝えるべき情報まとめ【受診準備リスト】
落ち着いて愛猫の状態を把握することが、問題解決への第一歩です。
元気は?水は飲む?トイレは?猫の全身状態を観察しよう
まずは、ごはん以外の様子に変化がないか、猫の全身状態をチェックします。食欲不振以外の情報が多いほど、原因の特定がしやすくなります。
元気・活気: いつも通り遊んだり、走り回ったりしていますか。それとも、部屋の隅でじっとしていますか。
飲水量: 水は普段通り飲んでいますか。全く飲まない、あるいは逆に大量に飲むなどの変化はありませんか。
排泄: おしっこやうんちは出ていますか。色や形、量、回数はいつもと変わりありませんか。トイレで苦しそうな素振りは見せませんか。
嘔吐・下痢: 吐いたり、便が緩くなったりしていませんか。
体重: 可能であれば体重を測ってみましょう。食欲不振が数日続いている場合、体重が減少している可能性があります。
これらの観察結果をメモしておくと、獣医師にスムーズに状況を伝えられます。特に飲水量と排泄の変化は、腎臓や泌尿器系の病気を発見する重要な手がかりになることもあります。
【動画で実践】口の中をチェック!歯茎の色・よだれ・口臭は病気のサイン?
猫がごはんを食べたがらない時、口の中に痛みや違和感を抱えているケースは少なくありません。可能であれば、猫がリラックスしている時に口の中を優しくチェックしてみましょう。
歯茎の色: 健康な歯茎はきれいなピンク色です。白っぽい場合は貧血、赤く腫れている場合は歯肉炎や口内炎が疑われます。
歯の状態: 歯がグラグラしていないか、歯石がびっしり付いていないか確認します。
口臭: いつもより口の臭いがきつくなっていませんか。独特のアンモニア臭や甘酸っぱい臭いは、内臓疾患のサインかもしれません。
よだれ: 口の周りが濡れていたり、よだれが多かったりしないかチェックしましょう。口内炎や異物、腫瘍などが原因の可能性があります。
猫が嫌がる場合は無理強いせず、口の周りを触ろうとすると嫌がる、よだれが多いといった様子だけでも観察してください。YouTubeなどで「猫 口 チェック」と検索すると、獣医師が実践する安全なチェック方法の動画が見つかるので、参考にしてみるのも良いでしょう。
体を優しく触ってチェック|痛がる場所や体重減少はない?
次に、猫の体を優しく撫でながら、しこりや痛がる場所がないかを確認します。このボディチェックは、病気の早期発見だけでなく、愛猫とのコミュニケーションにもなります。
まず、頭から尻尾にかけて、背骨に沿ってゆっくりと撫でてみましょう。次に、お腹周りを優しく触診します。この時、特定の場所を触ると鳴いたり、怒って逃げたりするようなら、その部分に痛みを感じているのかもしれません。
また、背中を撫でた時にゴツゴツと骨が当たるように感じたら、体重が減少しているサインです。食欲不振が長く続いている可能性が考えられます。普段からスキンシップを兼ねて体を触る習慣をつけておくと、わずかな変化にも気づきやすくなるでしょう。
獣医師に的確に伝えるべき情報まとめ【受診準備リスト】
動物病院を受診する際は、事前に情報を整理しておくと診察がスムーズに進みます。慌てずに済むよう、以下の項目をメモにまとめておくことをお勧めします。
いつから食べていないか:(例:昨日の夜から、2日前から)
全く食べないか、少しは食べるか:(例:ドライフードは食べないがウェットフードは少し舐める)
食欲不振以外の症状:(例:嘔吐が2回あった、水をよく飲む)
元気・排泄・飲水の様子:(例:元気はなく寝てばかり、おしっこは出ている)
最近の変化:(例:フードを変えた、引っ越した、来客があった)
持病や服用中の薬:(例:慢性腎臓病で〇〇を服用中)
可能であれば、吐いたものや便を少量持参したり、スマホで動画を撮っておいたりすると、診断の大きな助けになります。正確な情報が、的確な診断と治療への近道となるのです。
猫がごはんを食べない原因はわがまま?フード・ストレスなど病気以外の可能性
「元気そうだし、水も飲む。でも、ごはんだけは食べない…」そんな時、飼い主さんは「もしかして、わがまま?」と考えてしまうかもしれません。しかし、猫の食欲不振には、病気以外にもさまざまな理由が隠されています。
ここでは、猫のデリケートな性質に起因する3つの主な原因について掘り下げていきます。
原因1|フードや食器・食事場所など「食事環境」の問題
原因2|引越しや来客が引き金?「ストレス」による食欲不振
原因3|発情期・ワクチン・加齢などその他の生理的な理由
愛猫の行動の裏にある、本当の理由を探ってみましょう。
原因1|フードや食器・食事場所など「食事環境」の問題
毎日当たり前に提供している食事環境が、実は猫にとって快適ではないかもしれません。フードそのものから食器、食事をする場所にいたるまで、見直すべきポイントはいくつかあります。
実はグルメ?味・食感・粒の大きさが気に入らない
猫は非常に好みがはっきりした動物です。今まで食べていたフードでも、メーカーがリニューアルして味や香りが少し変わっただけで、ぷいっとそっぽを向いてしまうことがあります。
また、子猫から成猫、シニア猫へと成長するにつれて、味の好みや食べやすい粒の大きさが変化することも。特に、歯周病などで口の中に痛みがある場合は、硬いドライフードを避けてウェットフードを好むようになるケースも見られます。愛猫の好みに合っているか、今一度確認してみましょう。
フードの酸化や湿気に注意!風味が落ちて食べていないのかも
キャットフード、特にドライフードは開封した瞬間から酸化が始まります。酸化が進むと風味が落ち、猫の食欲を減退させる原因になります。大袋のフードを長期間かけて与えている場合は、最後のほうは味が大きく変わっているかもしれません。
また、梅雨時など湿度の高い季節には、フードが湿気てしまい食感が悪くなることもあります。フードは密閉容器に入れて冷暗所で保存し、開封後はなるべく1ヶ月以内に使い切るように心がけましょう。劣化したフードは猫の健康にも良くありません。
【専門家が指摘】単なる飽きじゃない「フードファティーグ」とは?
猫が同じフードを食べなくなる現象は、単なる「飽き」や「わがまま」ではなく、「フードファティーグ(Food Fatigue)」という概念で説明されることがあります。フードファティーグとは、毎日同じ味や食感のフードを食べ続けることで、猫がその刺激に感覚的に疲れてしまう状態を指す言葉です。
これは、私たち人間がどんなに好きなものでも毎日続くと食べ飽きてしまう感覚と似ています。猫の食欲不振を「わがまま」と決めつけず、食事に変化をもたらす工夫が必要なサインと捉える視点も大切でしょう。
食器や食事場所は快適?ヒゲが当たったり騒がしかったりしないか確認
意外と見落としがちなのが、食器や食事場所の問題です。猫のヒゲは非常に敏感な感覚器で、食事の際にヒゲが食器の縁に当たることを嫌う子がいます。もし深さのあるお皿を使っているなら、浅くて広めのものに変えるだけで食べるようになるかもしれません。
また、食事場所も重要です。人の出入りが激しい場所や、洗濯機など大きな音がする家電の近くは、猫が落ち着いて食事をするのに適していません。静かで安心できる場所に食事スペースを確保してあげましょう。
原因2|引越しや来客が引き金?「ストレス」による食欲不振
猫は環境の変化に非常に敏感な動物です。人間にとっては些細なことでも、猫にとっては大きなストレスとなり、食欲不振に繋がることがあります。
引っ越しや模様替え、家電の音など環境の変化
引っ越しや部屋の模様替えは、猫にとって最大のストレス要因の一つです。自分の縄張りが大きく変わることで不安を感じ、食欲がなくなってしまうことがあります。新しい家具や家電の匂い、作動音に慣れずに警戒しているのかもしれません。
このような場合は、猫が安心できる隠れ家を用意したり、以前使っていた毛布など自分の匂いがついたものを近くに置いてあげたりすると効果的です。環境に慣れるまで、焦らずそっと見守ってあげましょう。
来客や新しいペットの存在など社会的なストレス
見慣れない来客や、新しく迎え入れたペットも、猫にとっては大きなストレス源です。特に、自分の縄張りに他の動物が入ってくることは、大きな脅威と感じる場合があります。
多頭飼育の場合は、他の猫に食事を邪魔されたり、食器を横取りされたりすることがストレスになっている可能性も。それぞれの猫が安心して食事できるよう、食器を離れた場所に置くなどの配慮が必要です。
おやつの与えすぎに注意!飼い主の行動が原因のケースも
可愛い愛猫についおやつを与えすぎてしまうことはありませんか。おやつでお腹がいっぱいになってしまい、主食である総合栄養食のごはんを食べられなくなっているのかもしれません。
おやつの量は1日の総摂取カロリーの10%程度に抑えるのが理想的です。また、「ごはんを食べないから」と心配して、代わりにおやつを与えてしまうと、「ごはんを食べなければ、もっと美味しいおやつがもらえる」と学習してしまう可能性があるので注意しましょう。
【体験談】「待ち戦術」を学習!賢い猫の駆け引き
Q&Aサイトなどでは、「ごはんを食べないと、もっと美味しいウェットフードやチュールを出してくれると猫が学習してしまった」という飼い主の体験談がしばしば見られます。これは、賢い猫が飼い主の行動パターンを読んで仕掛ける「待ち戦術」と言えるでしょう。
心配するあまりに次々とフードを変えたり、高級なトッピングを加えたりすると、猫の要求はエスカレートしてしまうかもしれません。もちろん病気の可能性は常に考慮すべきですが、元気で他に問題がない場合は、猫との駆け引きになっている可能性も頭の片隅に置いておくと良いでしょう。
原因3|発情期・ワクチン・加齢などその他の生理的な理由
病気やストレス以外にも、猫の生理的な変化が食欲不振の原因となることがあります。
避妊・去勢手術をしていない猫の場合、発情期になるとそわそわして落ち着きがなくなり、食欲が落ちることがあります。これは一時的なものであることがほとんどです。
また、ワクチン接種後に、一時的な副反応として元気や食欲がなくなることも。通常は1〜2日で回復しますが、症状が長引く場合は獣医師に相談してください。加齢によって運動量が減り、基礎代謝が落ちることで、必要なエネルギー量が減って食欲が低下するケースもあります。
【最も注意すべき】猫がごはんを食べないのは病気のサインかもしれない
元気そうに見えても、猫の食欲不振は軽視できません。なぜなら、猫は体調不良を隠す習性がある動物だからです。「ごはんを食べない」という行動そのものが、飼い主に伝えられる唯一のSOSサインであることも少なくありません。
ここでは、食欲不振が症状として現れる可能性のある、注意すべき病気について詳しく解説します。
【研究データも】食欲不振は慢性腎臓病(CKD)など重い病気の初期症状かも
口の中のトラブル|歯周病や口内炎の痛みで食べられない
消化器系の病気|胃腸炎・便秘・異物の誤飲など
内臓・泌尿器系の病気|腎臓病(CKD)・肝臓疾患・尿路結石
その他の病気|感染症や関節炎の痛み、腫瘍の可能性も
これらの病気は、早期発見・早期治療が非常に重要です。
【研究データも】食欲不振は慢性腎臓病(CKD)など重い病気の初期症状かも
猫の食欲不振は、様々な病気の初期症状として現れますが、特に高齢の猫で注意したいのが「慢性腎臓病(CKD)」です。慢性腎臓病は、腎臓の機能が徐々に低下していく病気で、猫の死因の上位を占めています。
ある研究では、慢性腎臓病と診断された猫の多くが、診断前から食欲不振や体重減少を示していたことが報告されています。初期段階では「水をよく飲む」「おしっこが多い」といった症状とともに、なんとなく食欲が落ちる程度の変化しか見られないため、見過ごされがちです。食欲不振が続く場合は、単なる老化やわがままと片付けず、病気の可能性を疑うことが重要と言えるでしょう。
口の中のトラブル|歯周病や口内炎の痛みで食べられない
ごはんを食べたそうにするけれど、口に入れてすぐにやめてしまう、食べながら鳴くといった行動が見られる場合、口の中に原因がある可能性が高いです。
歯周病: 猫の成猫の約8割が罹患しているとも言われる病気です。歯垢や歯石が原因で歯茎が炎症を起こし、悪化すると歯が抜けたり、顎の骨が溶けたりします。強い痛みを伴うため、食事が困難になります。
口内炎: 口の中の粘膜に激しい炎症が起こる病気で、強い痛みを伴います。よだれが多くなったり、口臭がきつくなったりするのも特徴です。
これらの口内トラブルは、食欲に直結します。硬いドライフードを嫌がるようになったら、口の中をチェックしてみるか、動物病院で診てもらいましょう。
消化器系の病気|胃腸炎・便秘・異物の誤飲など
胃や腸といった消化器系の不調も、食欲不振の直接的な原因となります。
胃腸炎: ウイルスや細菌の感染、食べ過ぎなどが原因で胃腸が炎症を起こします。嘔吐や下痢を伴うことが多く、お腹の不快感から食欲がなくなります。
便秘: 数日間排便がないと、お腹が張って気持ち悪くなり、食欲が低下します。高齢の猫や運動不足の猫に多く見られます。
異物の誤飲: おもちゃの部品や紐などを飲み込んでしまうと、胃や腸に詰まって腸閉塞を起こすことがあります。嘔吐を繰り返し、ぐったりして全く食べなくなるなど、緊急性の高い状態です。
お腹を触られるのを嫌がる、トイレでいきんでいるのに便が出ない、といったサインにも注意が必要です。
内臓・泌尿器系の病気|腎臓病(CKD)・肝臓疾患・尿路結石
食欲不振は、体の内部で進行する様々な病気のサインでもあります。特に、沈黙の臓器と呼ばれる肝臓や腎臓の病気は、症状が出た時にはかなり進行していることも少なくありません。
腎臓病(CKD): 前述の通り、高齢猫に非常に多い病気です。食欲不振のほか、多飲多尿、体重減少、嘔吐などの症状が見られます。
肝臓疾患: 肝臓の機能が低下すると、体内に毒素が溜まり、黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)や元気消失とともに食欲がなくなります。
尿路結石: 膀胱や尿道に結石ができる病気です。頻繁にトイレに行く、排尿時に痛がる、血尿が出るといった症状が見られ、痛みや不快感から食欲が低下します。
これらの病気は血液検査や尿検査、画像診断などで特定できます。気になる症状があれば、早めに動物病院を受診しましょう。
その他の病気|感染症や関節炎の痛み、腫瘍の可能性も
上記以外にも、食欲不振を引き起こす病気は数多く存在します。
猫風邪と呼ばれるようなウイルス感染症にかかると、発熱や鼻づまりで匂いが分かりにくくなり、食欲が落ちます。また、高齢の猫では関節炎を患っていることも多く、食事の姿勢をとるのがつらくて食べられないケースも。
さらに、体のどこかに腫瘍(がん)ができている場合も、全身状態の悪化に伴い食欲が低下します。原因がはっきりしない食欲不振が続く場合は、あらゆる可能性を考えて、獣医師による総合的な診察を受けることが大切です。
【子猫・老猫】年齢別に解説!猫がごはんを食べない特有の理由と注意点
猫がごはんを食べない原因は、ライフステージによっても異なります。急成長する子猫期と、身体機能が変化する老猫期では、特に注意すべき特有の理由が存在します。
ここでは、子猫と老猫(シニア猫)それぞれが食欲不振に陥りやすい原因と、飼い主が気をつけるべきポイントを年齢別に解説します。
子猫がごはんを食べない場合|環境ストレスや歯の生え変わりが原因?
老猫(シニア猫)がごはんを食べない場合|嗅覚の低下や病気のサインかも
愛猫の年齢に合わせたケアで、健康をサポートしてあげましょう。
子猫がごはんを食べない場合|環境ストレスや歯の生え変わりが原因?
小さな子猫がごはんを食べないと、成長への影響が心配になりますよね。子猫の食欲不振には、成猫とは少し違った原因が考えられます。
まず、家に迎えられたばかりの子猫は、母猫や兄弟と離れ、新しい環境に来たことによるストレスや不安で食欲が落ちることがあります。安心できる寝床を用意し、静かに見守ってあげることが大切です。
また、生後3ヶ月から6ヶ月頃は、乳歯から永久歯への生え変わりの時期にあたります。この時期は歯茎がむずがゆくなったり、痛みを感じたりして、硬いドライフードを食べたがらなくなることがあります。ぬるま湯でフードをふやかしたり、ウェットフードを与えたりする工夫が必要です。
注意!子猫の食欲不振は命に関わる「低血糖」を引き起こす危険性
子猫の食欲不振で最も警戒すべきなのが「低血糖」です。子猫は体にエネルギーを蓄える力がまだ弱いため、半日でも食事を摂らないと血糖値が急激に下がり、低血糖状態に陥る危険があります。
低血糖になると、ぐったりして元気がなくなったり、けいれんや意識障害を起こしたりすることもあり、命に関わります。子猫がごはんを食べずにぐったりしている場合は、緊急事態です。すぐに動物病院に連絡し、指示を仰いでください。
老猫(シニア猫)がごはんを食べない場合|嗅覚の低下や病気のサインかも
7歳頃からシニア期に入る猫。老猫(シニア猫)の食欲不振は、単なる老化現象と片付けられない、重要なサインであることが多いです。
加齢に伴い、猫も人間と同じように嗅覚や味覚が衰えてきます。猫は食事を匂いで判断する傾向が強いため、フードの匂いが分かりにくくなると食欲が低下することがあります。フードを少し温めて香りを立たせてあげると、食欲が刺激されるかもしれません。
また、関節炎などで首や腰に痛みがあり、低い位置にある食器で食べるのが辛くなっている可能性も。食事台などを使って食器に高さを持たせてあげると、楽な姿勢で食べられるようになります。
老猫は特に注意!慢性腎臓病や甲腺機能亢進症など隠れた病気
老猫の食欲不振で最も注意すべきなのは、背景に病気が隠れている可能性です。
慢性腎臓病(CKD): 高齢の猫に非常に多く、食欲不振は代表的な初期症状の一つです。
甲状腺機能亢進症: 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、たくさん食べるのに痩せてきたり、逆に食欲がなくなったりします。
歯周病・口内炎: 長年の歯石の蓄積により、口内のトラブルを抱えている老猫は少なくありません。
腫瘍(がん): 体のどこかにできた腫瘍が、痛みや不快感、全身状態の悪化を引き起こし、食欲不振に繋がります。
これらの病気は、静かに進行していることがほとんどです。「年のせいかな」で済ませずに、食欲不振が続く場合は必ず動物病院で詳しい検査を受けましょう。
猫がごはんを食べない…どうすれば?食欲を刺激する具体的な対処法
愛猫がごはんを食べてくれない時、飼い主として何かできることはないかと焦ってしまいますよね。病院へ行くべき危険なサインがなく、元気な様子であれば、まずはご家庭でできるいくつかの工夫を試してみましょう。
ここでは、猫の食欲を優しく刺激するための具体的な対処法を3つのステップで紹介します。
対処法1|フードを温める・トッピングするなど簡単な工夫で食欲アップ
対処法2|食器の見直しや静かな場所への移動で食事環境を改善
対処法3|食事をゲームに!狩猟本能を刺激する「エンリッチメントフィーディング」
簡単なものから、ぜひ試してみてください。
対処法1|フードを温める・トッピングするなど簡単な工夫で食欲アップ
まずはフードそのものに少し手を加えて、猫の興味を引く工夫をしてみましょう。猫は嗅覚で食べ物を判断するため、「香り」が重要なポイントです。
フードを温める: ドライ・ウェット問わず、フードを人肌程度(約30〜40℃)に温めると香りが強くなり、食欲を刺激します。電子レンジで数秒加熱するか、湯煎するのがおすすめです。加熱しすぎないように注意してください。
風味をプラスする: いつものフードに、猫用のかつお節やウェットフード、チュールなどを少量トッピングしてみましょう。好きなものの香りがすることで、食べてくれるきっかけになることがあります。
ウェットフードを試す: 普段ドライフードしか与えていない場合は、嗜好性の高いウェットフードを試してみるのも一つの手です。水分補給にもなります。
ただし、トッピングの与えすぎは栄養バランスの偏りや、それがないと食べない癖につながる可能性もあるため、あくまで一時的な対策としましょう。
対処法2|食器の見直しや静かな場所への移動で食事環境を改善
フードを変えても食べてくれない場合、食事をしている「環境」に問題があるのかもしれません。猫がリラックスして食事に集中できる環境を整えてあげましょう。
食器を見直す: 猫のヒゲが食器の縁に当たるのを嫌う子もいます。深皿を使っている場合は、ヒゲが当たりにくい浅くて広いお皿に変えてみてください。陶器製やガラス製の食器は匂いがつきにくく、衛生的でおすすめです。
食事場所を変える: 玄関や廊下など人の行き来が多い場所や、テレビや洗濯機などの音がする場所は避け、静かで落ち着ける場所に食事スペースを移してあげましょう。
食器を清潔に保つ: 食べ残しが長時間放置されていたり、食器が汚れていたりすると、猫は食事を嫌がることがあります。食事のたびに食器をきれいに洗い、新鮮なフードと水を用意してください。
対処法3|食事をゲームに!狩猟本能を刺激する「エンリッチメントフィーディング」
少し変わったアプローチとして、「エンリッチメントフィーディング」を試してみるのも良いでしょう。これは、猫の狩猟本能を刺激することで、食事を「楽しい活動」に変える試みです。海外では、退屈やストレスによる食欲不振の解決策として注目されています。
具体的には、パズルフィーダーや知育トイといった、猫が頭や体を使ってフードを取り出すおもちゃを活用します。転がしたり、穴から手を入れたりしてフードをゲットする過程が、猫の満足感を高め、食べる意欲を引き出すことがあります。
【おすすめ商品】パズルフィーダーや知育トイの使い方
パズルフィーダーには様々な種類があります。最初は、転がすだけで簡単にフードが出てくるボール型のような、難易度の低いものから始めましょう。猫が遊び方を理解し、成功体験を積むことが大切です。
慣れてきたら、少しずつ難易度を上げていきます。複数の部屋にフードを少量ずつ隠して探させる「宝探しゲーム」も、エンリッチメントフィーディングの一環です。食事を単なる栄養摂取の時間ではなく、楽しいハンティングの時間に変えてあげることで、心身ともに満たされ、食欲改善に繋がるかもしれません。
猫がごはんを食べない時に逆効果!飼い主がやりがちなNG行動4つ
愛猫を心配するあまり、良かれと思って取った行動が、かえって状況を悪化させてしまうことがあります。猫は非常にデリケートな動物。その性質を理解せずに行動すると、食欲不振を長引かせたり、新たな問題を引き起こしたりするかもしれません。
ここでは、飼い主さんがついやってしまいがちな4つのNG行動を解説します。
NG行動1|フードを頻繁に変えすぎる
NG行動2|無理やり口に押し込む
NG行動3|人間の食べ物を与える
NG行動4|元気そうだからと放置する
愛猫との信頼関係を損なわないためにも、これらの行動は避けましょう。
NG行動1|フードを頻繁に変えすぎる
「これを食べないなら、次はこれ!」と、1日に何度も違う種類のフードを次々と出すのは避けましょう。猫は非常に賢いため、「待っていれば、もっと美味しいものが出てくる」と学習してしまうことがあります。
この駆け引きが習慣化すると、単なる「選り好み」が悪化してしまうかもしれません。フードを試す場合は、最低でも半日〜1日は様子を見て、猫が新しいフードに慣れる時間を考慮してください。焦りは禁物です。
NG行動2|無理やり口に押し込む
心配のあまり、フードを猫の口に無理やり押し込もうとするのは絶対にやめましょう。この行為は猫に強い恐怖心とストレスを与えるだけでなく、食べ物そのものに対して嫌なイメージを植え付けてしまいます。
結果として、食事の時間や飼い主の手を怖がるようになり、食欲不振がさらに悪化する「負のスパイラル」に陥る可能性があります。また、誤嚥(食べ物が気管に入ってしまうこと)の危険もあるため、非常に危険な行為です。
NG行動3|人間の食べ物を与える
「キャットフードを食べないから」といって、パンや刺身、牛乳など人間の食べ物を与えるのはやめましょう。人間の食べ物には、猫にとって塩分や糖分が多すぎたり、玉ねぎやチョコレートのように中毒を引き起こす危険な成分が含まれていたりします。
一度味の濃い人間の食べ物を覚えてしまうと、栄養バランスが計算されたキャットフードをますます食べなくなる原因にも。愛猫の健康を守るためにも、人間の食事は与えないというルールを徹底してください。
NG行動4|元気そうだからと放置する
「元気そうだし、そのうち食べるだろう」と安易に考え、食欲不振を長時間放置するのは危険です。特に猫の場合、24時間以上何も食べない状態が続くと、「肝リピドーシス(脂肪肝)」という命に関わる重い肝臓の病気を発症するリスクが高まります。
肝リピドーシスは、体がエネルギー不足を補うために脂肪を分解し、それが肝臓に過剰に蓄積することで発症します。たとえ元気に見えても、丸1日以上絶食状態が続く場合は、必ず動物病院を受診するようにしましょう。
もう繰り返さない!猫がごはんを食べない状況を防ぐための3つの習慣
一度愛猫がごはんを食べなくなると、飼い主さんは大きな不安に襲われます。こうした事態を未然に防ぎ、日頃から愛猫の健康状態を把握しておくことが何よりも大切です。
ここでは、猫の食欲不振を予防し、異変にいち早く気づくための3つの習慣をご紹介します。
予防策1|体重・食事量・排泄物を記録して変化にすぐ気づく
予防策2|フードの正しい切り替え方と保存方法をマスターする
予防策3|年1回の健康診断でかかりつけ医との関係を築く
今日から始められる簡単な習慣で、愛猫の健やかな毎日を守りましょう。
予防策1|体重・食事量・排泄物を記録して変化にすぐ気づく
日々の小さな変化に気づくためには、「記録」が最も効果的です。毎日でなくても構いませんので、定期的に記録をつける習慣をつけましょう。
体重: 少なくとも月に1回は体重を測定します。わずかな体重の増減が、病気の早期発見に繋がることがあります。
食事量: 毎日どれくらいの量を食べたか、大まかに記録します。食欲の低下にいち早く気づけます。
排泄物: トイレ掃除の際に、おしっこやうんちの量、色、硬さをチェックする習慣をつけましょう。「いつもよりおしっこの量が多い」「便が硬い」といった変化は重要な健康のバロメーターです。
スマホのアプリやノートなどを活用して、「健康日誌」をつけてみるのがおすすめです。
予防策2|フードの正しい切り替え方と保存方法をマスターする
フードにまつわるトラブルは、正しい知識で防ぐことができます。フードの切り替えと保存、この2つの基本をマスターしておきましょう。
猫の警戒心「猫新奇性恐怖症」を理解したフード切り替え術
猫には「猫新奇性恐怖症(ネオフォビア)」と呼ばれる、新しい食べ物に対して強い警戒心を示す性質があります。そのため、フードを急に全て新しいものに変えると、警戒して全く食べなくなってしまうことがあります。
フードを切り替える際は、今までのフードに新しいフードを少量混ぜることから始め、1〜2週間かけて少しずつ新しいフードの割合を増やしていくのが正しい方法です。猫の警戒心を理解し、焦らずゆっくりと慣らしてあげましょう。
「フードファティーグ」を防ぐフードローテーションのすすめ
同じフードを食べ続けることで感覚的に疲れてしまう「フードファティーグ」を防ぐためには、フードローテーションが有効です。これは、味や主原料の異なる2〜3種類のフードを、数ヶ月単位で切り替えて与える方法です。
フードローテーションには、栄養の偏りを防いだり、食物アレルギーのリスクを低減したりするメリットもあります。愛猫の好みに合うフードをいくつか見つけておけば、突然の製造中止やリニューアルで困ることも少なくなるでしょう。
予防策3|年1回の健康診断でかかりつけ医との関係を築く
症状が出ていなくても、年に1回は動物病院で健康診断を受けることを強く推奨します。特に7歳以上のシニア猫は、半年に1回の検診が理想です。
健康診断では、身体検査に加えて血液検査や尿検査を行うことで、見た目ではわからない内臓の病気などを早期に発見できる可能性があります。
また、定期的に通院することで、猫が病院の雰囲気に慣れるだけでなく、獣医師に愛猫の普段の様子を知ってもらい、いざという時に相談しやすい「かかりつけ医」との信頼関係を築くことができます。これが、愛猫の健康を守る上で何よりの安心材料となるでしょう。
まとめ|愛情深い観察で健康を守ろう
愛猫がごはんを食べない時、その理由は「わがまま」から命に関わる「病気」まで、実にさまざまです。元気そうに見えても、猫は不調を隠す名人。食欲不振は、彼らが私たち飼い主に送る、数少ない貴重なSOSサインなのかもしれません。
大切なのは、慌てず、しかし油断せず、愛猫の状態を冷静に観察することです。この記事で紹介したセルフチェックリストや対処法を参考に、まずは原因を探ってみてください。そして、少しでも「おかしいな」と感じたら、ためらわずに動物病院の専門家を頼りましょう。
日々の体重や食事の記録、そして何より愛情深い眼差しが、愛猫の小さな変化に気づくための最大の鍵となります。あなたの細やかな観察と適切な対応が、愛猫のかけがえのない健康と幸せな毎日を守るのです。