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【猫の行動学】多頭飼いの喧嘩を止めるには? 長期化・深刻化を防ぐ解決策

  • 執筆者の写真: Ryuichi Saika
    Ryuichi Saika
  • 6 日前
  • 読了時間: 10分
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多頭飼いにおける猫同士の喧嘩は、飼い主にとって非常に深刻な悩みです。

威嚇や追いかけっこが日常化し、夜間の騒音で睡眠不足になったり、喧嘩がエスカレートして流血沙汰になったりすると、「もう仲直りできないのではないか」「このまま猫を手放すしかないのか」と、飼い主自身が精神的に疲弊してしまうことも少なくありません。


しかし猫の喧嘩は、その原因を正しく理解し、行動学に基づいた科学的なステップを踏むことで、必ず解決の糸口が見つかります。


本記事は、長期化・深刻化した猫の喧嘩に悩む飼い主に向けて、共感と専門的な知見を提供します。まずは喧嘩の真偽を見極める方法から、今すぐできる仲裁テクニック、そして最終手段としての専門家への相談まで、猫を手放す前に試すべきすべての解決策をステップバイステップで解説します。




「じゃれ合い」と「本気の喧嘩」の見分け方:仲裁すべきか判断する境界線


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猫の取っ組み合いを見たとき、飼い主がまず悩むのは「これは本気の喧嘩なのか、それともただの遊びなのか」という点でしょう。仲裁すべきか否かを判断するためには、猫の行動のサインを正確に読み取ることが重要です。



喧嘩の「ルール」を知る:本気の喧嘩のサインと鳴き声


猫の喧嘩には、エスカレートする段階があり、特に威嚇と攻撃の深刻度が重要な判断基準となります。

行動のサイン

じゃれ合い(遊び)

本気の喧嘩(闘争)

仲裁の必要性

鳴き声

ほとんどない、または低い「ウー」という声が短く出る程度。

「シャー」「フー」という激しい威嚇音、または「アオーン」という唸り声が続く。

爪・噛みつき

爪は出さず、噛みつきも手加減している(甘噛み)。

爪を立てる、本気で噛みつく(流血の可能性)、毛が飛び散る。

追いかけっこ

役割が交代する、途中で休憩を挟む。

一方が一方的に追いかけ、もう一方が逃げ場を失っている。

中〜高

耳の形

前を向いている、またはリラックスしている。

完全に後ろに倒れている(イカ耳)、瞳孔が開いている。

終了後

すぐにグルーミングを始める、または一緒に寝る。

互いに距離を取り、長時間威嚇し合う、または隠れる。

特に、「シャー」「フー」という威嚇が続き、流血を伴う噛みつきや爪が出ている場合は、本気の喧嘩であり、飼い主による安全な仲裁が必要です。



【データで解説】猫の取っ組み合いの約56%は「遊び」である


猫の行動に関する研究では、猫同士の取っ組み合いのうち、約56.2%が「じゃれ合い」、28.6%が「闘争的」、残りが「中間」という結果が示されています 1。このデータは、飼い主が過度に心配しすぎず、まずは冷静に観察することの重要性を示しています。遊びの延長であれば、猫同士の社会性を育む機会にもなります。しかし、上記のような本気の喧嘩のサインが見られた場合は、すぐに次のステップに進んでください。




なぜうちの猫は喧嘩するのか?多頭飼いにおける4つの根本原因


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喧嘩を根本的に解決するためには、その原因を特定することが不可欠です。多頭飼いにおける猫の喧嘩は、主に以下の4つの原因に分類されます。



縄張り争い:室内飼いでも起こる「テリトリー」の侵害


猫は基本的に単独行動を好む動物であり、自分のテリトリーを非常に重視します。室内飼いであっても、トイレ、食事場所、寝床といった重要なリソースが共有されていると、縄張り意識から喧嘩に発展します。特に、新入り猫を迎えた際、先住猫が自分のテリトリーを侵害されたと感じるケースや、去勢・避妊手術をしていないオス猫同士、メス猫同士で縄張り意識が強く出る場合があります。



相性の問題:性格や年齢、性別による不一致


猫同士の性格、年齢、性別、そして初対面の印象が合わないことが、喧嘩の長期化に繋がります。特に、初対面で威嚇や攻撃が起こると、その悪い印象が残り、仲直りが困難になることがあります。また、去勢・避妊手術は、性ホルモンに起因する攻撃行動を抑制する上で非常に重要です。



ストレスと欲求不満:環境エンリッチメントの不足


猫が隠れ場所や高い場所といった安心できるパーソナルスペースを確保できていないと、常に不安やストレスを感じ、攻撃的になりやすくなります。また、遊びや狩りの欲求が満たされないことも、イライラを募らせ、他の猫への攻撃行動として現れることがあります。



転嫁性攻撃行動:別のイライラを相手にぶつける


窓の外に見える他の猫や、大きな音など、別の対象に対するイライラや恐怖を、近くにいる同居猫にぶつけてしまう行動です。この場合、喧嘩の原因は同居猫にあるわけではないため、飼い主が原因を誤解しやすい点に注意が必要です。




今すぐ喧嘩を止める!飼い主が安全に行う仲裁方法と注意点


本気の喧嘩が始まった場合、飼い主は安全かつ迅速に仲裁を行う必要があります。



絶対NG!手を出して仲裁してはいけない理由


猫は興奮状態にあるため、素手で間に入ると、飼い主が怪我をするリスクが非常に高いです。また、猫は「飼い主が自分を攻撃した」と誤解し、飼い主への信頼関係が崩れる可能性があります。仲裁は、必ず猫に触れずに行うことが鉄則です。



喧嘩を安全に止める具体的なテクニック


喧嘩を止める目的は、猫同士の視覚的な接触を遮断し、興奮状態をリセットすることです。


  • タオルや毛布で視界を遮る「タオル仲裁法」: 興奮している猫に、タオルや毛布を優しく投げかけ、視界を遮ることで、一時的に攻撃行動を中断させます 2。これは、猫の注意をそらし、物理的なバリアを作る効果があります。

  • 大きな音や拍手で注意をそらす: 喧嘩の最中に、手を叩く、大きな音を立てる、または床に物を落とすなどして、猫の注意を瞬間的にそらします。ただし、猫が音に過剰に反応し、さらにパニックにならないよう注意が必要です。

  • 霧吹きやおもちゃで興味をそらす(最終手段): 霧吹きは猫が嫌がるため、一時的に喧嘩を止められますが、猫が飼い主に対して不信感を抱く可能性があるため、他の方法が効かない場合の最終手段としてください。


仲裁後の対応:すぐに仲直りさせようとしない


喧嘩を止めた後は、最低でも30分から数時間、猫同士を別の部屋に隔離し、完全にクールダウンさせることが重要です。すぐに再会させると、興奮状態が持続し、再び喧嘩が始まる可能性が高まります。隔離中は、それぞれの猫が安心できる環境で過ごせるように配慮してください。




喧嘩を根本から防ぐ!多頭飼いのための環境エンリッチメント


喧嘩の根本的な解決は、猫がストレスなく暮らせる環境を整える「環境エンリッチメント」にかかっています。



喧嘩を減らすための「3つの数」の原則


猫の縄張り争いの多くは、リソース(資源)の不足から生じます。以下の「3つの数」の原則を徹底することで、リソースの競合を避けることができます。

リソース

適切な数

意図

トイレ

猫の頭数+1個

縄張り意識の強い猫でも、自分のトイレを確保できるようにする。設置場所も分散させる。

食器・水飲み場

猫の頭数分、またはそれ以上

食事中の威嚇や独占を防ぐため、個別に離して設置する。

隠れ場所

猫の頭数分、またはそれ以上

喧嘩から逃げたり、安心したりできるパーソナルスペースを確保する。



空間を広げる「高さ」の活用


猫にとって、高さは縄張りの重要な要素です。キャットタワーや棚などを活用し、垂直方向にテリトリーを広げることで、猫同士が物理的に距離を取りやすくなります。

逃げ場所と見晴らしの良い場所の重要性は決して見逃せません。劣勢な猫がすぐに逃げ込める場所や、優位な猫が見晴らしの良い場所から他の猫を監視できる場所を確保することで、猫の不安を軽減し、無用な衝突を避けることができます。



【長期化・深刻化の最終手段】獣医行動学に基づく解決ステップ


喧嘩が数ヶ月にわたり長期化している場合や、環境改善だけでは解決しない深刻なケースでは、獣医行動学に基づいた段階的なアプローチが必要です。これは、猫の行動を科学的に修正していくための、最も効果的で専門的な方法です。



ステップ1:完全隔離による「安全対策」と「クールダウン」


まず、猫同士を完全に隔離し、お互いの姿が見えない状態にします。この期間は、猫の興奮状態をリセットし、飼い主自身の精神的疲労を回復させるための重要な時間です。隔離期間は、猫のストレスレベルに応じて数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。



ステップ2:段階的な「再慣らし(リダイレクション)」の手順


隔離後、すぐに再会させるのではなく、以下の手順で段階的に慣らしていきます。


  1. 匂いの交換: 隔離した部屋の猫のタオルやベッドを交換し、お互いの匂いに慣れさせます。

  2. 視覚的な対面: ケージ越しやベビーゲート越しなど、安全なバリア越しに短時間だけ対面させます。この際、威嚇や攻撃のサインが見られたらすぐに隔離します。

  3. ポジティブな関連付け: 対面中に、おやつや遊びといったポジティブな体験を同時に与えることで、「相手の猫がいると良いことがある」と学習させます。



行動療法をサポートする専門アイテム


再慣らしの成功率を高めるために、専門的なアイテムの活用が推奨されます。


  • フェロモン製剤(Feliway、Comfort Zone)の活用法: 猫の顔から分泌されるフェイシャルフェロモンを人工的に合成した製品です。これを室内に拡散することで、猫に「ここは安全な場所だ」と感じさせ、不安や緊張を軽減する効果が期待できます 3。

  • サプリメント(α-カソゼピンなど)による不安軽減: 牛乳由来のタンパク質に含まれる成分など、猫の不安を和らげる効果があるとされるサプリメントも、獣医師の指導のもとで活用できます。



薬物療法と専門家への相談:手放す前に試すべき最終手段


あらゆる環境改善や行動療法を試しても喧嘩が収まらない場合、薬物療法が選択肢に入ります。これは、猫の過度な不安や攻撃性を一時的に抑え、行動療法を成功させるためのサポートとして、獣医行動診療科の専門医によって処方されます。

「猫を手放す」という決断をする前に、必ず獣医行動診療科の専門家へ相談してください。専門家は、猫の行動を詳細に分析し、個体と環境に合わせた最適な治療計画を立ててくれます。飼い主の「しんどい」という気持ちに寄り添い、解決に向けて共に歩んでくれる存在です。




もし猫が喧嘩で怪我をしたら?応急処置と病院へ行く目安


喧嘩がエスカレートし、猫が怪我をしてしまった場合の迅速な対応は、感染症の予防や重症化を防ぐために重要です。



喧嘩による怪我で多いケース(噛み傷、爪傷)


猫の喧嘩で最も多いのは、噛み傷と爪傷です。特に噛み傷は、皮膚の表面は小さくても、牙が深く刺さって内部で細菌感染を起こし、膿瘍(のうよう)を形成しやすいという特徴があります。



飼い主が行うべき応急処置


  • 隔離と保定: まずは怪我をした猫を安全な場所に隔離し、落ち着かせます。

  • 傷口の洗浄: 傷口を清潔な水や生理食塩水で優しく洗い流し、汚れを落とします。

  • 止血: 出血がある場合は、清潔なガーゼや布で優しく圧迫して止血します。



動物病院に連れて行くべき判断基準


  • 流血が止まらない場合や、傷口が深くパックリと開いている場合は、すぐに病院へ。

  • 噛み傷や爪傷は、傷口が小さくても数日後に腫れや熱を持ち始めた場合(膿瘍のサイン)は、必ず病院へ連れて行ってください。

  • 猫が食欲不振、元気がない、足をかばうなどの症状を見せたら、内出血や骨折の可能性もあるため、獣医師の診察を受けてください。




まとめ:多頭飼いの喧嘩は「仲良し」ではなく「共存」を目指す


多頭飼いの喧嘩の解決において、最終的に目指すべきは、「仲良し」ではなく「共存」です。猫は本来、群れで生活する動物ではないため、無理に仲良くさせる必要はありません。お互いが安全な距離を保ち、ストレスなく生活できる状態こそが、多頭飼いの成功と言えます。

本記事で紹介した環境エンリッチメントと獣医行動学に基づく解決ステップを実践することで、猫同士の関係は必ず改善に向かいます。諦めずに、猫たちのために「できることは全てやった」という安心感を持って、この問題に取り組んでいただければ幸いです。

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猫4匹と実家の柴犬2匹と暮らしています。多頭飼いの楽しさと大変さ、日々の工夫をゆるっとシェアしています。

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